東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12937号 判決
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〔判決理由〕二、(因果関係)
本件事故と原告の主張する負傷(ムチ打等)との因果関係について検討する。<証拠>を総合すれば次の事実を認めることができる。
原告は昭和三八年一〇月二二日付で東京都から個人タクシーの免許を受け、それ以来引き続き都内において自から運転して個人タクシーを営み、一家の生計をたてて来ていた。ところが昭和四三年九月一五日、加害車が被害車の左後部に追突するという本件事故が発生した。そこで本件事故の処理として、即日、渋谷警察署において係官立会のもとに、疋田運転手と原告との間に「被害車の修理代とこれに伴う損失一切を疋田運転手が支払う」旨の示談が成立し、その旨の記載ある示談書を右警察署に提出した。
その後、原告は従前同様運転する毎日であり、他方右修理代金等の支払催促のため被告方に二回ばかり赴いたが、その請求額が高すぎる旨の被告側の態度により、支払が受けられなかつた。
これがため原告は本件事故により生じた賠償の処理に関し東京都個人タクシー協同組合に委任した。そして同組合の理事長は被告に対し昭和四四年二月七日付内容証明郵便により車輌修理代並に休業補償に関する件と題し「本件追突事故により破損した被害車について、貴社側で一切責任を取る条件の下に、本件を事故扱いと致さず、その後再三再四連絡すれど何ら御返事なく、貴社において誠意を欠くものと考えて居ります。つきましては車輛修理代金六万七百八拾参円及び営業補償費八千円、合計六万八千七百八拾参円の支払う様お願い致します。」旨記載して請求して来た。これに対し被告は右組合理事長に宛て同年同月一九日付内容証明郵便で、「右請求額を認めるけれども一カ月金一万円宛の月賦弁済にさせてもらいたい」旨の返事を出した。これにもとづき同年三月一七日に「疋田運転手は原告に対し同年三月以降同年九月まで毎月金一万円宛、但し最終月は残金八七八三円を月賦弁済する。
これにより右請求額を完済することにより、原告は、それ以上の請求権を放棄する」旨の示談が成立し、示談書をとりかわした。
被告側は右示談のとおり履行した。
以上の過程において人身(負傷による)損害がある等のことは全く問題にならなかつた。原告が負傷していないことを当然の前提に示談が成立した。
ところが昭和四四年七月になつてから、原告側(前記組合の事故係数名が被告方に来訪して、まず右示談金の支払について謝礼を述べたうえ、「原告は本件事故によりムチ打症になり治療しているので、お宅の保険番号を教えてもらいたい。お宅には迷惑をかけないから」と申し出た。これに対し被告側では、原告がムチ打症に掛つたとは到底考えられない、として右申出を拒絶した。<証拠判断・略>
右認定事実によれば、原告主張するムチ打症等があつたとしても、それは本件事故と相当因果関係がないものと認めるのを相当とする。即ち原告は数通の診断書を提出して本件事故との因果関係を立証しようとしているけれども、前認定のとおり原告は従前同様個人タクシーを運転して収入をあげていたし、事故後九カ月も経過してからはじめて被告側に対しムチ打症になつた旨申し出たので、如何にムチ打症が緩慢に進むとしてみても、外傷性であつてみれば、経過しすぎているともいえる。のみならず、原告の主張によれば三月に示談が成立した際には、示談しようとする物損の金六万円余より既に相当高額な休業損害が生じていた計算になるにもかかわらず、これについて将来別途に解決することとし、この際は物損に限定する等の文言がとりかわされて然るべきであると考えられるのに、全然触れられていないこと自体からみてもムチ打症等があつたとは認め難い。
(竜前三郎)